3000例に1例の頻度。気管内挿管時の喉頭鏡操作による損傷が大部分で上顎前歯におこりやすい。マスク換気時の損傷、エアウエイ、バイトブロックによる損傷もみられる。
歯牙損傷の分類
a脱臼
- 不完全脱臼
歯と歯槽骨をつなぐ歯根膜繊維の大部分が断裂した状態 - 完全脱臼
歯が歯槽より完全に逸脱したもの
b破折
- 破折した部位により以下の3つに分類
- 歯冠破折
- 歯冠歯根破折
- 歯根破折
動揺度の分類(Millerの分類)
- 0度:生理的動揺(0.2mm以内)
- 1度:唇舌方向にわずかに動揺するもの(0.2~1mm)
- 2度:唇舌方向に中等度に、近遠心的にもわずかに動揺するもの(1~2mm)
- 3度:唇舌、近遠心方向だけでなく、歯軸方向にも動揺するもの(2mm前後かそれ以上)
歯牙損傷のリスクファクター
- 歯牙の動揺(齲蝕、歯周病、顔面外傷)
- 挿管困難(頚椎可動域制限、開口制限、前突歯、小顎)
- 緊急手術
- 未熟な挿管技術
対策
1インフォームドコンセント
麻酔承諾書に歯牙損傷の可能性を明記する。
2動揺している歯牙の位置、動揺度の評価
術前の状態を記録しておく。可能なら術前に歯科受診し治療する。3度なら抜歯の適応
3挿管困難
ファイバースコープによる経鼻挿管を考慮する。
4 歯の保護
- エアウエイ、バイトブロックは奥歯で噛むように挿入する。(解剖学的に奥歯のほうが折れにくい)動揺歯があるようなら動揺歯を避けるように置く。
- プロテクターの作成。
- ガーゼを丸めてバイトブロックの代わりにする。
- 抜管時の損傷を避けるため深麻酔抜管する。
損傷時の対応
- 脱落した歯を速やかに取り除く
見つからない場合はXPをとって確認。気道内に迷入した場合早急に気管支鏡で取り 除く。消化管内へ迷入した場合は通常2~3日で便とともに排泄されるためXPフォロー し排泄を確認する。 - 歯科治療の依頼
a脱臼、亜脱臼の処置
速やかに整復し(30分以内)金属線や歯質接着性レジンで固定する。歯根膜の温存が 重要で、歯根部にはなるべく触らないようにし処置までの間は乾燥を避けるため牛乳も しくは生食に保存する。後日歯髄処置を行う。
b破折の処置
エナメル質だけの損傷の場合は緊急の処置は必要ない。後日修復を試みる。
象牙質、歯髄の損傷がある場合は早期の歯科的処置が必要。歯髄の処置の後修復を試みる。 - 補償についての交渉
原則的に患者負担とする。
以下のフローチャートに従い安全対策委員会に報告する。
- 【参考文献】
- 岩月尚文ほか:よくある症例の麻酔、歯牙損傷、歯科医による検査が原則.LiSA 7:922-924,2000
- 宮部雅幸ほか:バイトブロック・エアウエイ・気管チューブ固定テープ. 麻酔科診療プラクティス、麻酔偶発症・合併症p41-43、東京、文光堂、2004
- 増田明ほか:喉頭鏡・スタイレット.麻酔科診療プラクティス、麻酔偶発症・合併症、44-45、文光堂、東京、2004
- 土井克史ほか:歯牙動揺が激しい.麻酔科診療プラクティス、麻酔科トラブルシューティング、141-142、文光堂、東京、2005
- 結城禎一:一にも二にも術前のムンテラが大事!.LiSA 7:928-929,2000
- 中村一喜ほか:麻酔中の歯牙損傷に対する保護床の有用性.麻酔52:26-31,1998
- 宮地圭祐ほか:麻酔時の歯牙損傷に対する対応.日本麻酔科学会第51回学術集会
- 福田仁一:各論A歯の外傷.標準口腔外科学96-98、医学書院、東京、2004
- WarnerME et al:Perianesthetic dental injuries.Anesthesiology 90:1302-1305,1999