1. トップ>
  2. 医局案内>
  3. 麻酔科マニュアル(プロトコル)>
  4. 上気道炎マニュアル

麻酔科マニュアル(プロトコル)

上気道炎マニュアル ~感染症と麻酔~

1.小児の上気道感染

現在上気道炎のある児では手術を延期する。罹患後2週間延期することが望ましいが、手術の緊急性・侵襲の程度などから総合的に判断する。
現在上気道感染のある児では術後に一過性の低酸素血症の危険性が増すとする報告3や、 2~7倍術中・術後合併症が多く、気管挿管例に限れば11倍であったとする報告4がある。 一方、症状が消失していても2週間以内に上気道炎に罹患していた症例では、術中に喉頭・気管支痙攣、息こらえなどの合併症が 多かった1とする報告がある。 しかし、慢性中耳炎患者では急性上気道炎感染は術中術後合併症の増加因子とはならず、手術を受けた群でむしろ上気道感染症状の経過が 短かったと報告している5


2.上気道炎の程度

現在上気道炎に罹患しているか否か、及びその程度の判断はかぜスコア7(表1)参考にする。

里吉らは上記スコアを作成し、調査した結果、術中の気管内洗浄、換気困難、発熱とスコアとの間には明らかな関連がみられ、術後の発熱、呼吸音異常、 下痢も高スコアほど多かったとした。かぜスコア2点以下は麻酔を通常通り行いうるが、5点以上は中止すべきであり、 3~4点は境界群として十分な麻酔管理と合併症への対策を準備しておくべきであるとしている。


3.成人の上気道感染

症状が存在する間は手術を延期する。
Nandwaniら12は成人の上気道炎患者で気道過敏性の亢進について調べており、症状が存在する間(発症9日目) までは気道過敏性の亢進が持続するとしている。


4.予防接種と麻酔

1 予防接種後の麻酔・手術

予防接種ガイドライン11「抜歯、扁桃摘出、ヘルニアの手術等緊急性のない場合には 予防接種後1ヶ月間は原則として避けることが望ましい。」
生ワクチン(ポリオ、麻疹、風疹、BCG、おたふくかぜ、水痘)
:接種後4週間以後
不活化ワクチン(ジフテリア、百日咳、破傷風、日本脳炎、インフルエンザ、B型肝炎)
:接種後1週間以後
全身麻酔による免疫抑制により免疫が獲得されない恐れや生ワクチンによる感染を引き起こす可能性もある。

2 ウイルス性疾患罹患後の麻酔・手術8

最短でも全身症状および性が消失するまで延期。または、感染症の登園・登校に関する基準(表)を参考とする。
麻疹:皮膚症状出現から5日 風疹:7日 水痘:最後の水痘のかひ化するまで。
免疫能が一過性に低下するため可能であれば罹患後4週間以後が望ましい。特に麻疹では細胞性免疫が低下すると報告されている9

3 麻酔後の予防接種10

少なくとも2週間あける。

4 接種後緊急手術をおこなった場合10

接種したのが生ワクチンであれば2ヶ月以降に抗体を測定する。不活化ワクチンであれば追加接種を必ず行う。

5 輸血またはガンマグロブリン投与を行った場合

麻疹の予防接種は投与3ヶ月以上間隔をあけておこなう。11
風疹、水痘、おたふくかぜワクチン添付文書にも同様の記載

*インフルエンザについて

感染力は発症から3~7日間
登園・登校の基準:解熱後2日経過するまで


かぜスコア7
項目(各1点)
① 鼻閉・鼻汁・くしゃみ
② 咽頭発赤・扁桃腫脹
③ 咳嗽・喀痰・さ声
④ 呼吸音異常
⑤ 発熱(乳児38.0, 幼児37.5℃以上)
⑥ 食思不振・嘔吐・下痢
⑦ 胸部X線写真異常
⑧ 白血球増多(乳児12,000, 幼児10,000/mm3 以上)
⑨ かぜの既往(入院前2週間以内)
⑩ 年齢因子(生後6ヶ月未満)
0~2点:健常群、3~4点:境界群、5点以上:危険群

感染症の登園・登校に関する基準
分類 病名 登園・登校の目安
第1種 コレラ 赤痢  腸チフスなど 治癒するまで
第2種 インフルエンザ 解熱した後2日経過するまで
百日咳 特有な咳が消失するまで
麻疹 解熱した後3日経過するまで
流行性耳下腺炎 耳下腺腫脹が消失するまで
風疹 紅斑性の発疹が消失するまで
水痘 すべての発疹が痂皮化するまで
咽頭結膜熱 主症状が消失した後2日を経過するまで
結核 医師が伝染のおそれがないと認められるまで
第3種 腸管出血性大腸菌感染症 症状が改善し、医師が伝染のおそれがないと認められるまで
流行性結膜炎 眼症状が改善し、医師が伝染のおそれがい認められるまで
  • 1 Tait,A.R. & Knight, P.R.: Intraoperative respiratory complication s in patients with upper respiratory tract infections. Can.J.Anaesth.34:300-303,1987.
  • 2 Berry FA : Preexisting medical conditions of pediatric patients . Semn Anesth3:24-31,1984
  • 3 Desoto H, Patel RI, Soliman IE, et al. Changes in oxygen saturation following general anesthesia in children with upper respiratory infection signs and symptoms undergoing otolaryngological procedures. Anesthesiology68:276-279, 1988
  • 4 Cohen MM,Cameron CB. Should you cancel the operation when a child has an upper respiratory tract infection. Anesth Analg 72:282-288,1991
  • 5 Tait,A.R. & Knight, P.R.:The effects of general anesthesia on upper respiratory tract infections in children. Anesthesiology 67:930-935,1987
  • 6 Berry FA : Anesthetic management of difficult and routine pediatric patients. Churchill,Livingston,NewYork,1986,349-367
  • 7 水嶋章朗、里吉光子:かぜスコアによる乳幼児かぜ症候群の評価. 臨床麻酔13:28-34,1989
  • 8 香川哲郎:小児の麻酔・手術は罹患後何日とすべきか 臨床麻酔26:1565-1567,2002
  • 9 Nana R. , Chittka B.,Hadam M.et al.:Measles virus infection causes transient depletion of activated T cells peripheral circulation. J.Clin.Viro.12:201-210,1999
  • 10 小林信一:予防接種と麻酔・手術 小児外科35:1314-1317,2003
  • 11 日本小児科連絡協議会予防接種専門委員会、予防接種ガイドライン1998
  • 12 Nandwani N, Raphael H : Effect of an upper respiratory tract infection on upper airway reactivity . British J. of anaesthesia 78:352-355,1997