適応
I. 適応術式
・短期滞在手術基本料1が算定できる手術 皮膚、皮下腫瘍摘出術 (露出部) 長径4cm以上 (6歳未満に限る) 皮膚、皮下腫瘍摘出術 (露出部以外) 長径6cm以上 (6歳未満に限る) 腋臭症手術 半月板切除術 (関節鏡下によるものを含む) 手根管開放手術 (関節鏡下によるものを含む) 眼内レンズ挿入術 乳腺腫瘍摘出術 気管支狭窄拡張術 (気管支鏡によるもの) 気管支腫瘍摘出術 (気管支鏡または気管支ファイバースコープによるもの) ヘルニア手術 鼠径ヘルニア (12歳未満に限る) 内視鏡的胃、十二指腸ポリープ、粘膜切除術 早期悪性腫瘍粘膜切除術 内視鏡的結腸ポリープ、粘膜切除術 早期悪性腫瘍粘膜切除術 経尿道的レーザー前立腺切除術 |
・短期滞在手術基本料2が算定できる手術 関節鼠摘出術 (関節鏡下によるものを含む) 半月板縫合術 (関節鏡下によるものを含む) 靭帯断裂縫合術 (関節鏡下によるものを含む) 胸腔鏡下交感神経節切除術 顎下腺腫瘍摘出術 顎下腺摘出術 甲状腺部分切除術、甲状腺腫瘍摘出術 下肢静脈瘤手術 抜去切除術 腹腔鏡下胆嚢摘出術 腹腔鏡下虫垂切除術 痔核手術 (脱肛を含む) 根治手術 経尿道的尿路結石除去術 (超音波下に行った場合も含む) 尿失禁手術 子宮頸部切除術 子宮鏡下子宮筋腫摘出術 子宮付属器腫瘍摘出術 (両側) 腹腔鏡によるもの |
・90分以下の手術
麻酔時間、手術時間がなると
術後疼痛、嘔吐の発生が多くなる
退院が遅れる
入院が増える
II. 患者の特性による選択
- ASA physical status
I-IIで重篤な合併症を持たない患者
合併症の少なくとも3ヶ月間の良好なコントロール
高血圧症、心不全、狭心症、喘息、COPD、病的肥満、喫煙では術後合併症が増加
悪性高熱の素因のある患者は術後4時間観察し問題なければ帰宅可能 - 年齢
高齢者:年齢と回復時間、合併症発現率に相関なし
- 術後疼痛、めまい、嘔吐が少ない
- 入院という生活環境の変化から術後せん妄、痴呆などの合併症を招く
- 術後心血管系のイベントが多い
- 運動能力、認知能力の回復が遅い
小児:胎生37週以下の未熟児は適応外
- 術後無呼吸発作発現頻度が高い
- 胎生60週以下では議論が分かれる - 絶対的条件
- 帰宅時より付き添うことのできる適切な家族の存在
- ホームドクター、もしくは手術を受けた医療機関まで1-2時間以内
術前検査
年齢 | 男性 | 女性 |
---|---|---|
40歳以下 | なし | 妊娠テスト |
41-49歳 | 心電図 | hb or ht 妊娠テスト |
50-64歳 | 心電図 | Hb or Ht 心電図 |
65歳以上 | Hb or Ht BUN 血糖 心電図 胸部エックス線写真 |
体表手術
男性:なし、女性:Hb
高血圧症:電解質
糖尿病:血糖
説明のつかないHb 低下:要精査
術前の禁飲食
固形物は術前8時間前まで、残渣のない水分は2時間前まで
36ヶ月以下では固形物、ミルクは術前6時間前まで、残渣のない水分は2時間前まで
量は10mL/kg、最大量200mLまで
予定手術前の4-5時間の禁飲食は疑問視されている
清透液の胃内半減期は10-20分、2時間後の胃内容物は禁飲食患者より少ない
麻酔方法
I. 気道確保
体表手術
誤嚥の危険が高い患者以外 、挿管は必要ない
ラリンジアルマスク(LMA)
日帰り麻酔で挿管せずマスクより確実な気道確保のできる道具としてつくられた
胃内容逆流 、誤嚥、上気道からの出血のリスクが高い患者では使うべきでない
II. 麻酔薬
1導入薬
propofol | barbiturateより好ましいrecoveryが得られる |
---|---|
sevoflurane | 刺激が少なく、好ましいrecoveryが得られる |
高齢者で循環動態の安定が保てる | |
1回換気量吸入法で導入できるので、小児、成人ともに使用される |
2麻酔維持
利点 | 欠点 | |
---|---|---|
propofol | 他の静脈麻酔薬と比較し好ましいrecoveryが得られる | 同じ麻酔深度を得るのにpropofolの方がsevofluraneよりコストが高い |
PONVを減らし、制吐薬の必要性を減らす | ||
吸入麻酔薬と比較し、PONVを減らす | ||
recoveryでのコストを減らすことができるため、全体的なコストを有意に削減できる | ||
sevoflurane | 覚醒が早い | 導入時、覚醒期の興奮、PONVの頻度は高い |
同じ麻酔深度を得るのにpropofolよりsevofluraneの方がコストが安い | ||
亜酸化窒素 | 併用すると、他の静脈麻酔薬、吸入麻酔薬を節減できるため、recoveryが早く、コストを下げることができる | ponvとの関係は疑問視されている |
3筋弛緩薬
気管挿管が必要な症例、自発呼吸が手術の妨げになる症例では用いる
succinylcholine投与による筋肉痛が小手術後の日帰り手術患者で多い
III. 鎮痛薬
1acetaminophen
小児で最も一般的に使用
覚醒前に10-15mg/kg経直腸的に投与
経口 (シロップ) | 坐剤 | |
---|---|---|
1日2回まで 6時間以上あける |
1日1回まで | |
3-5ヶ月 | 60mg | |
6-11ヶ月 | 80mg | 50mg |
1-2歳 | 100mg | 50-100mg |
3-5歳 | 140mg | 100mg |
6-12歳 | 200mg | 100-200mg |
2NSAIDs
flurbiprofen静注
diclofenacは入室後早期投与が最適
坐剤 | |
---|---|
1日1-2回 | |
1-3歳 | 6.25mg |
3-6歳 | 6.25-12.5mg |
6-9歳 | 12.5mg |
9-12歳 | 12.5-25mg |
成人 | 25-50mg |
3fentanyl
1-2microg/kg静注は挿管時、皮膚切開時の疼痛刺激を抑制
吸入麻酔に併用することでより速やかな覚醒が可能
4morphine
術後疼痛を軽減
PONV増加
5butorphanol
20microg/kgの導入時静注は、初期回復期の鎮静効果がfentanylより強い40microg/kgでは鎮痛効果がfentanylより高い
PONV対策
I. リスク
年齢(乳児、高齢者で低い)
女性
月経周期(排卵期、黄体期で高い)
非喫煙者
PONVの既往
乗り物酔い
術後オピオイドの使用
2metoclopramide
PONVの予防に効果
半減期が短いので手術の終わる頃に用いる
metclopramide 10-20mg+droperidol 0.5-1.0mgを共に用いることでdroperidol単独よりも効果が高い
帰宅基準
覚醒段階 | 臨床的チェック基準 |
---|---|
第1段階 麻酔からの覚醒(手術室内) |
呼びかけに反応する |
舌根沈下などがなく気道が通る | |
SpO2>94% (酸素投与の有無を問わず) | |
外科的または麻酔による合併症が最小限 | |
第2段階 初期回復(回復室内) |
安定した血圧、呼吸数、心拍数 |
SpO2がroom airで正常 | |
各種反射、咳嗽、咽頭反射の回復 | |
覚醒してはっきりした意識状態 | |
外科的合併症がない (出血など) | |
Aldreteスコア>9または類似のスコアリングを満たす | |
第3段階 中間期回復(帰宅可能) |
各施設での帰宅基準を満たす |
介助なく起立し歩行してトイレへ行ける | |
手術、麻酔の合併症、副作用がない | |
第4段階 後期回復(社会復帰可能) |
心理行動学的機能が術前状態に復帰 |
記憶、認識機能が術前状態に復帰 | |
集中力、論理的思考力が術前状態に復帰 | |
日常生活活動、職場復帰が可能 |
活動性 | 点数 | |
---|---|---|
動作能力 | 四肢全て | 2 |
いずれかの二肢 | 1 | |
なし | 0 | |
呼吸 | 深呼吸と咳嗽反射可能 | 2 |
呼吸抑制または浅く制限された呼吸 | 1 | |
無呼吸 | 0 | |
循環 | 術前血圧と比較して | |
血圧±20mmHgの範囲内の変動 | 2 | |
血圧±20-50mmHgの変動 | 1 | |
血圧±50mmHgの変動 | 0 | |
意識状態 | 完全覚醒状態 | 2 |
呼びかけに対して反応可能 | 1 | |
無反応 | 0 | |
皮膚色調 | 正常 | 2 |
青白い、悪い感じの色 | 1 | |
チアノーゼ | 0 |
9点以上であれば、帰宅準備室へ移動可能な基準を満たしている
点数 | ||
バイタルサイン | 術前値の20%以内の変動 | 2 |
術前値の20%から40%の変動 | 1 | |
術前値の40%以上の変動 | 0 | |
意識と歩行 | 名前、場所、時間の認識ができ、かつ歩行がしっかりしている | 2 |
名前、場所、時間の認識ができるか、または歩行がしっかりしている | 1 | |
いずれもできない | 0 | |
疼痛と悪心嘔吐 | ほとんどない | 2 |
軽度 | 1 | |
強い | 0 | |
出血 | ほとんどない | 2 |
軽度 | 1 | |
多い | 0 | |
経口摂取と排尿 | 飲水と排尿が可能 | 2 |
飲水または排尿が可能 | 1 | |
できない | 0 |
満点は10点で、帰宅には9点か10点が必要
点数 | ||
バイタルサイン | 術前値の20%以内の変動 | 2 |
術前値の20%から40%の変動 | 1 | |
術前値の40%以上の変動 | 0 | |
移動 | めまいがなく、しっかりした歩行 | 2 |
介助があれば歩行可能 | 1 | |
歩行不可能、またはめまいあり | 0 | |
悪心・嘔吐 | ほとんどない | 2 |
軽度 | 1 | |
強い | 0 | |
疼痛 | ほとんどない | 2 |
軽度 | 1 | |
強い | 0 | |
手術部位からの出血 | ほとんどい | 2 |
軽度 | 1 | |
多い | 0 |
満点は10点で、帰宅には9点か10点が必要
PADSSはPost anesthesia care unit (PACU) I (手術室から直結、麻酔覚醒室、術後回復室)からPACU II (帰宅準備室)への移動が可能か否かを判定する基準
Vital signには心拍数、血圧、呼吸数、体温が含まれる
飲水、排尿に関しては議論が分かれる
まとめ
90分以下の手術
ASA physical status I-II
合併症は少なくとも3ヶ月間の良好なコントロール
高齢者は年齢制限なし
胎生37週以下の未熟児は適応外
帰宅時より付き添える成人の存在
病院まで1-2時間以内
固形物は術前8時間前まで、残渣のない水分は術前2時間前まで
LMAを用いた全身麻酔が基本
導入はpropofolまたはsevoflurane
維持はpropofolまたはsevoflurane、笑気を併用してよい
鎮痛薬はacetaminophe、NSAIDsを用いる
強い疼痛にはfentanyl、butorphanolを手術開始早期に使用してよい
PONV対策を行う
metoclopramide、少量のdroperidolを用いる