日本医科大学千葉北総病院
(基幹研修施設)
研修プログラム到達目標
専門医制度は4年後の2019 年に大きく変革され、全ての専門医が学会、厚生労働省とは別の第三者機関により認定されることになります。麻酔科も例外ではありません1)。全ての麻酔科専攻医2)は、日本麻酔科学会の定める麻酔科専門医研修プログラム整備指針3)に則った研修プログラムを終了する必要があります。当院は責任基幹施設である日本医科大学付属病院(東京都文京区千駄木)の研修プログラムを受けることのできる基幹研修施設となっています。
以下は当院を中心として麻酔科を研修する場合の研修カリキュラムの到達目標です。
注:
1) 日本麻酔科学会の新しい専門医制度に関するサイト:http://www.anesth.or.jp/info/20130827.html
2) 専攻医:専門医を目指す研修中の医師,すなわち初期臨床研修終了後,専門医を目指して後期臨床研修を開始する者。
3) 麻酔科専門医研修プログラム整備指針:http://www.anesth.or.jp/info/pdf/20130827_3.pdf
1. 一般目標
安全かつ安心な周術期医療の提供という国民のニーズに応えることのできる、麻酔科およびその関連分野の診療を実践する専門医を育成することが一般目標である。その中にあって、当院の研修プログラムの目指すところは如何なる状況においても適切な判断の下、最適な麻酔を提供できる麻酔科医を養成することである。研修終了時には臨床家として独り立ちのできる麻酔科医となれるようなプログラムを提供する。
一般目標を達成するために下記の4つの資質を修得する。
- 1)十分な麻酔科領域、および麻酔科関連領域の専門知識と技量
- 2)刻々と変わる臨床現場における、適切な臨床的判断能力、問題解決能力
- 3)医の倫理に配慮し、診療を行う上での適切な態度、習慣
- 4)常に進歩する医療・医学を則して、生涯を通じて研鑽を継続する向上心
2. 個別目標
目標1(基本知識)
麻酔科診療に必要な知識を習得し、臨床応用することができる
具体的には公益法人日本麻酔科学会の定める「麻酔科医のための教育ガイドライン」の中の学習ガイドラインに準拠する。
1総論:
- 麻酔科医の役割と社会的な意義、医学や麻酔の歴史について理解している。
- 麻酔の安全と質の向上:麻酔の合併症発生率、リスクの種類、安全指針、医療の質向上に向けた活動などについて理解している。手術室の安全管理、環境整備について理解し、実践できる。
2生理学:下記の臓器の生理・病態生理、機能、評価・検査、麻酔の影響などについて理解している。
- 自律神経系
- 中枢神経系
- 神経筋接合部
- 呼吸
- 循環
- 肝臓
- 腎臓
- 酸塩基平衡、電解質
- 栄養
3薬理学:薬力学、薬物動態を理解している。特に下記の麻酔関連薬物について作用機序、代謝、臨床上の効用と影響について理解している。
- 吸入麻酔薬
- 静脈麻酔薬
- オピオイド
- 非オピオイド鎮痛薬
- 鎮静薬
- 筋弛緩薬
- 拮抗薬
- 局所麻酔薬
- 心血管作動薬
- その他
4麻酔管理総論:麻酔に必要な知識を持ち、実践できる
- 術前評価:常用内服薬の評価と管理、麻酔のリスクを増す患者因子の評価、術前に必要な検査、術前に行うべき合併症対策について理解している。
- 麻酔計画:各症例の年齢、体格、合併症などに応じた麻酔計画を立てることができる。気道確保の方法、麻酔維持の方法、予期せぬ状態に陥った場合の対策などを立案できる。これには挿管困難症の予測やその対策も含む。
- 麻酔器、モニター:麻酔器・麻酔回路の構造、点検方法、トラブルシューティング、モニター機器の原理、適応、モニターによる生体機能の評価、について理解し、実践ができる。
- 気道管理:気道の解剖、評価、様々な気道管理の方法、困難症例への対応などを理解し、実践できる。
- 麻酔導入:麻酔の導入方法にはいくつかのバリエーションがある。これらを習得し症例に合わせて適切な選択をして実践できる。
- 輸液・輸血療法:種類、適応、保存、合併症、緊急時対応などについて理解し、実践ができる。
- 脊髄くも膜下麻酔、硬膜外麻酔:適応、禁忌、関連する部所の解剖、手順、作用機序、合併症について理解し、実践ができる
- 神経ブロック:適応、禁忌、関連する部所の解剖、手順、作用機序、合併症について理解し、実践ができる。
- 麻酔維持:麻酔維持方法を選択・実施することができる。適切な鎮痛・鎮静管理、適切な循環管理、適切な無動化、反射の抑制ができる。
- 覚醒と抜管:病態に応じた覚醒と抜管ができる。挿管困難症例や急激な循環動態の変化を避けたい症例などにおける覚醒と抜管を安全かつ適切に行うことができる。
5麻酔管理各論:下記の様々な科の手術に対する麻酔方法について、それぞれの特性と留意すべきことを理解し、実践ができる。
- 腹部外科(腹腔鏡下手術を含む)
- 産婦人科(女性診療科・産科) (腹腔鏡下手術を含む)
- 心臓血管外科
- 呼吸器外科(胸腔鏡下手術を含む)
- 整形外科
- 脳神経外科(血管内コイリングを含む)
- 耳鼻咽喉科
- 泌尿器科
- 救急科
- メンタルヘルス科(精神科)
- 眼科
- 放射線科(ステント挿入術など)
- 小児外科
- その他
6術後管理:術後鎮痛、術後回復とその評価、術後の合併症とその対応に関して重症患者の術後管理も含め理解し、実践できる。
7集中治療:成人・小児の集中治療を要する疾患の診断と集中治療について理解し、実践できる。
8救急医療:救急医療の代表的な病態とその評価、治療について理解し、実践できる。それぞれの患者にあった蘇生法を理解し、実践できる。AHA-ACLS、またはAHA-PALSプロバイダーコースを受講し、プロバイダーカードを取得している。
9ペインクリニック:周術期の急性痛・慢性痛の機序、治療について理解し、実践できる。慢性疼痛・末梢神経障害性疼痛などの機序、治療について理解し、実践できる
目標2(診療技術)
麻酔科診療に必要な基本手技に習熟し、臨床応用できる
具体的には日本麻酔科学会の定める「麻酔科医のための教育ガイドライン」の中の基本手技ガイドラインに準拠する。
1基本手技ガイドラインにある下記のそれぞれの基本手技などについて、定められたコース目標に到達している。
- 血管確保・血液採取(中心静脈路確保を含む)
- 気道管理
- モニタリング
- 治療手技
- 心肺蘇生法
- 麻酔器点検および使用
- 脊髄くも膜下麻酔
- 硬膜外麻酔
- 末梢神経ブロック
- 鎮痛法および鎮静薬
- 感染予防
- その他
目標3(マネージメント)
麻酔科専門医として必要な臨床現場での役割を実践することで、安全な手術室運営を行うこと、また、緊急時においては患者の命を助けることができる
- 1周術期などの予期せぬ緊急事象に対して、適切に対処できる技術、判断能力を持っている。
- 2医療チームのリーダーとして、他科の医師、他職種と連携し、統率力をもって、周術期の刻々と変化する事象に対応することができる。
- 3中央手術室における待機手術のマネージメントができる。
目標4(医療倫理、医療安全)
医師として診療を行う上で、医の倫理に基づいた適切な態度と習慣を身につけ、また、医療安全についての理解を深める
- 1指導担当する医師とともに臨床研修環境の中で、協調して麻酔科診療を行うことができる。
- 2他科の医師、コメディカルなどと協力・協働して、チーム医療を実践することができる。
- 3麻酔科診療において、適切な態度で患者に接し、麻酔方法や周術期合併症をわかりやすく説明し、インフォームドコンセントを得ることができる。
- 4初期研修医や他の医師、コメディカル、実習中の学生などに対し、適切な態度で接しながら、麻酔科診療の教育をすることができる。
- 5インシデント・アクシデントを発見・把握し、然るべき部署などに報告、改善に結びつけることができる。
目標5(生涯教育)
医療・医学の進歩に則して、生涯を通じて自己の能力を研鑽する向上心を醸成する
- 1学習ガイドラインの中の麻酔における研究計画と統計学の項目に準拠して、evidence based medicine、統計、研究計画などについて理解している。
- 2院内のカンファレンスや抄読会、外部のセミナーやカンファレンスなどに出席し、積極的に討論に参加できる。
- 3学術集会や学術出版物に、症例報告や研究成果の発表をすることができる。
- 4臨床上の疑問に関して、指導医に尋ねることはもとより、自ら文献・資料などを用いて問題解決を行うことができる。
3. 経験目標
研修期間中に手術麻酔、集中治療、ペインクリニックの充分な臨床経験を積む。通常の全身麻酔・硬膜外麻酔・脊髄くも膜下麻酔・神経ブロックの症例経験に加え、下記の所定の件数の特殊麻酔を担当医として経験する。
- 小児(6歳未満)の麻酔
- 帝王切開術の麻酔
- 心臓血管外科・呼吸器外科の手術の麻酔
- 脳神経外科手術の麻酔
なお、心臓大血管の麻酔、集中治療については希望により関連施設間をローテーションし専門的領域の研鑽を深め、専門医取得の準備が可能である。