術前検査において以下の項目にひとつでも該当する症例は原則神経ブロック(硬膜外・脊椎麻酔)を行わない。
APTT 50秒以上(あるいは施設ごとの正常値上限を超えるもの)
血小板 10万/mm3以下あるいは70万/mm3以上
抗凝固療法中の患者に対する麻酔
1.低用量未分画ヘパリン(肺血栓塞栓静脈血栓塞栓症予防)
低用量(5,000単位皮下注、8時間あるいは12時間ごと)では、脊椎麻酔・硬膜外麻酔は禁忌でないが、以下のことに注意する。
- 刺入操作は未分画ヘパリン投与から4時間空ける。高濃度未分画ヘパリン皮下注(ヘパリンカルシウム)では,投与後10時間は空ける。
- 未分画ヘパリン投与は刺入操作から1時間空ける。
- カテーテル抜去は未分画ヘパリン投与の1時間前。または最終投与から4時間後に行う。
高濃度未分画ヘパリン皮下注(ヘパリンカルシウム)では,最終投与から10時間は空ける。
2.ワルファリン
ワルファリン投与中の患者が脊椎麻酔や硬膜外麻酔を受ける場合は,PT-INRを測定して抗凝固状態を評価し,以下のことに注意する。
- 長期にワルファリン投与を受けている患者は,原則的には手術前4日前に投与を中止する. 抗凝固療法の継続が必要であれば未分画ヘパリン200単位/Kg/dayに変更する.未分画ヘパリン投与は脊椎麻酔や硬膜外麻酔施行2~4時間前に中止する. 手術前にPT-INR<1.5,あるいはACT(活性化全血凝固時間)<180秒であることを確認する.
- その他の止血機構に影響を与える薬物を併用している場合,PT-INRでは抗凝固状態が測定できないので,個々に検討する.
- 手術直前にワルファリン療法が開始された患者では,初回投与が術前24時間以前の場合,あるいは2回目の投与がすでに行われている場合, ブロック直前にPT-INRを測定し抗凝固状態を評価する.
- ワルファリン投与を硬膜外ブロック中に受けている患者では,ワルファリン投与が術前36時間以前から行われていれば, PT-INRの測定をカテーテル抜去まで繰り返し行い抗凝固状態を評価する.
- カテーテルの抜去はPT-INR<1.5で行う.
- 硬膜外ブロック中にPT-INR>3となった場合は,ワルファリン投与を中断するか,減量する.
(肺血栓塞栓症-深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)予防ガイドラインより抜粋)
3.フォンダヌクスナトリウム(アリクストラ?)
フォンダパリヌクスナトリウムは合成Xa阻害剤であり、1日1回1.5~2.5mg皮下注する。
海外のガイドラインでは硬膜外カテーテル抜去のタイミングは最終投与後20~36時間、再投与のタイミングはカテーテル抜去後2~12時間が推奨されている。 術後にカテーテルを抜去した場合、少なくとも抜去後2時間は投与してはならない。
- 刺入操作およびカテーテル抜去は、最終投与から36時間後。
- 次回投与は、カテーテル抜去から12時間空ける。
(各国のガイドラインにより推奨する時間が異なるが、一番長いものを安全と考え採用。)
抗凝固療法中の脊髄くも膜下麻酔と硬膜外麻酔
参考文献 | 抗血小板療法 | 未分画ヘパリン 皮下注 |
静注 |
---|---|---|---|
German Society of Anesthesiology and Intensive Care Medicine | 指針なし | 穿刺はヘパリン投与から4時間あける。ヘパリン投与は穿刺やカテーテル抜去から一時間あける | 穿刺やカテーテル抜去は、ヘパリン中止から4時間あける。ヘパリン化はブロックから1時間あける(穿刺時出血した時は12時間あける) |
Spanish Consensus Forum | 指針なし | 記載なし | 穿刺はヘパリン投与から4時間 あける。ヘパリン化は穿刺から30分あける(穿刺時出血した時は6時間あける) |
American Society of Regional Anesthesia and Pain Medicine | NSAIDsに対する指針はない。中止すべきものはチクロピジンが14日前、クロピドグレルが7日前 、GPⅡb/Ⅲa阻害薬8~48時間前 | 指針なし | ヘパリン投与は穿刺から1時間あける。カテーテル抜去はヘパリン中止から2~4時間あける。穿刺時出血しても必ずしもヘパリン化を遅らせる必要はない |
参考文献 | 低分子ヘパリン | ワーファリン | 血栓溶解薬 | 漢方薬 |
---|---|---|---|---|
German Society of Anesthesiology and Intensive Care Medicine | 穿刺は低分子ヘパリン投与から10~12時間あける。次回投与は穿刺やカテーテル留置から4時間あける | カテーテルの抜去はワーファリン開始前に | 記載なし | 記載なし |
Spanish Consensus Forum | 穿刺は低分子ヘパリン投与から12時間以上あける。術後10~12時間あけて低分子ヘパリンを投与カテーテル抜去は10~12時間あける。 ヘパリンの次回投与は4時間あける。穿刺時出血した時はヘパリンの次回投与は24時間あける | 穿刺はINR<1.5で 行う | 記載なし | 記載なし |
American Society of Regional Anesthesia and Pain Medicine | 麻酔方法に関わらず手術後24時間は低分子ヘパリンを投与しない。カテーテルの抜去はヘパリン投与の2時間前にする | 穿刺前にINRが正常であることを確かめる。カテーテル抜去はINR<1.5で行う | 穿刺やカテーテル抜去に対する指針はないがフィブリノーゲンの検査値を見て判断すべきである | 投与中止の指針はないが、相互作用には注意をしたほうがよい |
術前中止すべき薬
商品名 | 一般名 | 作用機序,作用持続時間等 | 術前中止基準 |
---|---|---|---|
アンプラーグ錠 | 塩酸サルポグレラート | 選択的5HT2受容体拮抗剤 T1/2=約0.7時間(100mg単回経口投与時) 血小板凝集抑制作用発現と回復:投与後2時間以内、中止後約12時間 | 1日前 |
エパデールカプセル | イコサペント酸エチル | 血小板膜イコサペント酸含有量増加3) トロンボキサンA2産生抑制 血小板凝集抑制作用発現と回復:投与後2週間以内,中止後1週間~10日以内 | 5日前 |
コメリアン錠 | 塩酸ジラゼプ | T1/2=約4時間 | 1日前 |
セロクラール | 酒石酸イフェンプロジル | 血小板のα2受容体を介した抗血小板作用 | 2日前 |
ドルナー錠 | ベラプロストナトリウム | アデニレートシクラーゼ活性増強 T1/2=1.1時間,効果持続時間は8時間 血小板凝集抑制作用発現と回復 :投与後数時間,中止後1~2日以内 | 1日前 |
バイアスピリン錠 | アスピリン | シクロオキシゲナーゼ阻害血小板寿命 7~12日間 | 7日前 |
バスタレルF錠 | 塩酸トリメタジジン | T1/2=11.5時間 ヒトでの血小板抑制作用の報告あり | 2日前 |
パナルジン錠 | 塩酸チクロピジン | 血小板膜GPⅡb/Ⅲa拮抗 アデニレートシクラーゼ活性増強血小板凝集抑制作用発現と回復:投与後2~3日,中止後10~14日 血小板寿命 7~10日間 | 10~14日前 |
プレタール錠 | シロスタゾール | ホスホジエステラーゼ阻害剤 作用持続時間:48時間 血小板凝集抑制作用発現と回復:投与後数時間,中止後1~2日以内 96時間では薬剤効果なし | 3日前 |
プロレナール錠 | リマプロストアルファデクス | アデニレートシクラーゼ活性増強 3時間で薬剤効果なし | 1日前 |
ペルサンチン錠 | ジピリダモール | ホスホジエステラーゼ阻害剤 cAMP上昇,血管拡張 単回投与後24時間で血漿中濃度≒0 | 2日前 |
ロコルナール錠 | トラピジル | T1/2=約6時間 | 2日前 |
ワーファリン | ワルファリ | ビタミンK依存性凝固因子の 第Ⅱ(プロトロンビン),Ⅶ,Ⅸ,Ⅹ 因子の蛋白合成阻害 作用持続時間は3日間 | 5日前 |
プラビックス | 硫酸クロピドグレル | チクロピジンと同等の効果 | 10~14日前 |
APTT (activated partial thromboplastin time)
活性化部分トロンボプラスチン時間
正常値
PTT=50~70秒(70%以上)
APTT=20~35秒(70%以上)
検査目的
血液凝固因子の病気として知られている血友病は,人体にある13の凝固因子(血管外に出た血液をすばやく固める凝固因子)の因子が先天的に1つ欠けていて血が固まりにくくなっている病態のものですが,最もよくみられるのは,第VIIIあるいは第IX因子が遺伝的,先天的に欠乏している場合で,
血友病AおよびBとよばれています。いずれも伴性遺伝でまれな場合を除いて通常は男性に発症します。PTT/APTT検査は血友病を100%発見できる検査です。
PTT/APTTは止血機能の低下をみる検査です。これは血友病のスクリーニング(ある特定の病気をみつけることを目的とするのでなく,
いろいろな検査を組み合わせてふるい分け,陽性=異常と,陰性=正常の値から診断の方向づけをする検査)によく用いられているものです。血友病の血液凝固の
異常を知るPTTでは,13種類の血液凝固因子のうち特に第8,第9,第11,第12因子を活性化させる「部分トロンボプラスチン」という試薬を
血液(血漿)に加え,凝固までにかかる時間を測定します。
血友病は前述の通り内因性因子のうちの第8または第9因子がつくられないための病気ですから,その血漿は部分トロンボプラスチンによって十分に活性化されません。
すなわち正常な血漿に比較して凝固時間が延びる結果を示します。APTTはPTTと検査内容は同じの改良された検査のものです。
解説
PTT/APTT検査の結果が正常な血漿のものに比べ5秒以上の延長がありますと,異常と判定されます。血漿をどの程度薄めると
異常判定のものと同じ時間で固まるようになるか調べて,それを%であらわす検査方法もあります。
血友病の治療は,欠乏した血流凝固因子の補充で新鮮血,新鮮血漿,第8因子や第11因子の濃縮製剤がよく使われています。
疾病
数値が高い場合
血友病,フォンビルプラント病など。
「検診の検査値による健康診断」より抜粋。